近年、若者の間で起業や経済的成功への関心が高まっています。成功を収めた企業の創業エピソードは、新たに起業を志す人々にとって貴重な教訓とインスピレーションの源となります。世界的ベストセラー『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者として知られるロバート・キヨサキ氏が設立したCashflow Technologies, Inc.(キャッシュフロー・テクノロジーズ社、以下「CTI」)も、そんな注目すべき創業物語を持つ企業の一つです。
本記事では、CTIがどのように生まれ、創業者キヨサキ氏がどのような想いと方法で起業に挑んだのか、その軌跡を辿ります。
はじめに:金持ち父さんのエピソードは実は作り話
ロバート・キヨサキのエピソードは、キヨサキ氏自身の著書、『金持ち父さん貧乏父さん』シリーズにて語られていると思う方も多いでしょうが、実は『金持ち父さん貧乏父さん』に登場する「私」のストーリーは作り話であることは、キヨサキ氏自身のインタビューでも語られています。
主要な登場人物であり、タイトルにもなっている「金持ち父さん」も実在の人物ではなく、その「金持ち父さん」と「私」のストーリーももちろん作り話です。
また、『金持ち父さん貧乏父さん』シリーズにて度々語られる不動産投資のお話は、キヨサキ氏自身ではなく、その妻であるキム・キヨサキ氏の実話を元にしたフィクションです。
これは『金持ち父さん貧乏父さん』のテーマである「金融教育」のための本として、こういったストーリー形式が適している、というキヨサキ氏の考えです。
※もちろんビジネスなのでセルフブランディングや、この方が売れるだろう、というのはあったでしょう。
実際に読んでみればわかるのですが、本書はまるで実例のようなストーリー形式を挟むことで内容を極めて理解しやすく、また、文章そのものも非常に読みやすく構成されており、あまり本を読まなかった私でさえあれだけ分厚い文量を2日で読み切れてしまうほどよくできていました。
作中でキヨサキ氏自身の話も出てくるのですが少しだけです。今回はそんなロバート・キヨサキ氏と、彼が立ち上げたCashflow Technologies社について、詳しくご紹介します。
Cashflow Technologies はどんな会社か
Cashflow Technologies, Inc.は、1997年にロバート・キヨサキ氏(および妻のキム・キヨサキ氏)によって設立されたアメリカの企業です。同社は「金持ち父さん(Rich Dad)」及び「キャッシュフロー(Cashflow)」といったブランドの知的財産を保有・運営する持株会社であり、金融教育に特化した事業を展開しています。
その使命は「人々のお金に関する幸福度を向上させること」にあり、代表的な著書シリーズ『金持ち父さん』をはじめ、教育用ボードゲーム「キャッシュフロー」シリーズ、オーディオ・ビデオ教材、セミナーやコーチングプログラムなど、多岐にわたるコンテンツを通じてファイナンシャルリテラシー(金融リテラシー)向上のための機会を提供しています。
つまりCTIはビジネスおよび金融教育のための総合ブランド運営企業であり、書籍出版からゲーム開発、セミナー運営まで幅広く手掛けるのが特徴です。
Cashflow Technologies の創業者:ロバート・キヨサキ
生い立ち
ロバート・キヨサキは1947年、アメリカ合衆国のハワイで、学術教育者のラルフ・H・キヨサキと、看護師のマージョリー・O・キヨサキの息子として生まれました。
日系4世で、フルネームはロバート・トオル・キヨサキ。日本名は清崎 徹(きよさき とおる)です。
ロバートは長男で、姉のテンジン・カチョはダライ・ラマによって出家した尼僧、もう1人の姉はグラフィックデザイナー、弟は不動産管理の仕事に就いています。
貧乏父さんのモデルであるキヨサキ氏の実の父親・ラルフは教育者で、かつてハワイ州の教育長を務めました。また、1970年のハワイ州知事選挙では共和党から副知事選に出馬したものの落選。職を失い、貯金を元手にアイスクリームのフランチャイズ店を買収したものの、結局は失敗に終わり、その後、労働組合で働きました。このエピソードは金持ち父さんシリーズにも書かれているとおりです。
キヨサキはハワイのヒロ高校を卒業したものの、成績が悪かったため退学になりかけています。1965年にアメリカ商船学校に入学、4年後に甲板士官として卒業。マトソン社の船で士官候補生として勤務した後、アメリカ海兵隊に士官として入隊、ベトナム戦争中はヘリコプターのパイロットを務めました。
モチベーショナル・スピーカーに
1977年、キヨサキはサーファー用に、ナイロンとベルクロで作った財布の販売会社・リッパーズを創業。しかしすぐに倒産し、その後1978年6月までゼロックス社の営業マンとして働きます。
1980年代、サンディエゴでモチベーショナル・スピーカーとなり、「Money and You」と呼ばれる、Erhard Seminars Training(EST)社ののテクニックに関する講座を主催。
キヨサキ氏は1974年にこの講座の考案者である、マーシャル・サーバーが開講した講座を受講しており、その経験を活かしたものでした。
1984年、サーバーは事業をキヨサキとD.C.コルドバに譲渡し、二人はその後、この講座を米国外にも拡大。講座は一時、世界中に数万人の受講生を抱えていました。
1993年10月、オーストラリア放送協会(ABC)の「フォー・コーナーズ」が講座内の精神的虐待に関するドキュメンタリーを放送したことを受け、この事業はオーストラリアでほぼ破綻。キヨサキはこの番組が「不公平」だと述べ、ABCを訴えることも検討しましたが、結局は断念。
1994年にこの事業から撤退しました。
Cashflow Technologies はどういう経緯で生まれたのか
「自分たちが学んだお金の原則をどうすれば多くの人に伝えられるか?」というテーマが、ロバート・キヨサキと妻キムにはありました。当時、学校教育では金融や投資に関する知識がほとんど教えられていない現状があり、二人はその教育格差の問題を解決することを志します。
1993年、初の著書『お金持ちで幸せになりたいなら、学校に行くな!』を出版。この本の中で彼は、親たちに子供を大学に行かせず、不動産ビジネスに参入するよう勧めました。
キヨサキは遊びながら学べるボードゲームという手法にも着目。1996年、キヨサキ夫妻は楽しみながらお金の流れや投資を学べる教育用ボードゲーム「CASHFLOW 101(キャッシュフロー101)」を開発。
このゲームでは、プレイヤーがラットレース(終わりのない給料生活)から抜け出し、投資によって経済的自由を達成するプロセスを疑似体験できるよう工夫されていました。
その斬新な試みに手応えを感じたキヨサキ氏は、ゲームを広く普及させるためのマーケティング手段として小冊子の執筆を始めます。しかし書き進めるうちに内容は膨らみ、やがて一冊の本となりました。それが後に世界的ベストセラーとなる『金持ち父さん 貧乏父さん』です。
こうして執筆された『金持ち父さん 貧乏父さん』は1997年4月に自費出版という形で世に出されました。発売当初は無名の自己啓発書に過ぎませんでしたが、その実践的な内容が口コミで評判を呼び、やがてウォールストリートジャーナルやニューヨークタイムズのベストセラーリストに名を連ねるまでになりました。
CTIは「金持ち父さん」「CASHFLOW」といったブランドを包括的に管理し、それまで個人で行っていた出版・販売活動を企業組織として拡大させる役割を果たしました。
創業当初は小さな家族経営のような形で始まったこの事業ですが、2000年にはオプラ・ウィンフリーからの電話を受け、彼女の番組に出演したことをきっかけに一気に知名度が上がり、以降は書籍シリーズの続刊やゲームの改良版発売、セミナー事業の拡大などを通じてグローバルな展開を見せていきます。
CTI誕生の経緯には、「社会のニーズ(金融知識の不足)に応える」という明確なビジョンと、それを形にするための創意工夫(ゲームという媒体と自己出版)、そしてタイミングの妙があったと言えるでしょう。
ロバート・キヨサキは、創業資金をどうやって用意したのか
新規ビジネスを立ち上げる際には資金調達が大きな課題となりますが、CTIの場合、創業者キヨサキ氏自身が蓄えてきた資産とキャッシュフローがそのまま創業資金として充てられました。キヨサキ氏夫妻は創業前から不動産投資などで安定した不労所得を得ており、毎月1万ドルに上るキャッシュフローを生み出していました。
この経済的土台があったことで、銀行から多額の融資を受けたり外部のベンチャー資本に頼ったりすることなく、自力で事業を開始できたのです。
実際、『金持ち父さん 貧乏父さん』の初版出版費用や「キャッシュフロー101」ゲームの開発費用は、キヨサキ氏自身の資金によってまかなわれました。自費出版という選択をしたこと自体、彼が外部資本ではなく自己資金で勝負に出たことの表れです。
キヨサキ氏は投資において「他人のお金(ローンや投資家資金)を活用せよ」と説くことで知られていますが、自身の教育ビジネスのスタートに関しては、まずは自らのリソースで少額から試行し、事業の手応えを確認しながら拡大していく堅実なアプローチを取ったと言えるでしょう。
まとめ
ロバートキヨサキ氏、というか金持ち父さんのお話は、ビジネスや投資に興味を持つ方なら一度は読んだことがあるのではないでしょうか。キャッシュフローという言葉に聞き覚えがある方も多いはずです。
ただ、「金持ち父さんと私の話」が創作だったり、不動産投資の話が主に妻のキムさんの話だったということについては、知らない方も多いのではないでしょうか。
また、「金持ち父さん」の話は、マルチ商法や情報商材ビジネスに都合良く利用されがちなのもあって、日本だと悪いイメージが付きがちなこともありますが(他の国ではどうか知りませんが)、本自体は全然まともな本です。
私も3冊ほど読みましたが、正直最初の2冊だけでいいとは思っています。「金持ち父さん貧乏父さん」と「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」ですね。
ベストセラーあるあるで、内容を誤解されがちな気がするので、よく巷で言われていることについて、いくつか私の見解を述べておこうと思います。
不動産買えって本でしょ
まずこれは間違いです。言っちゃなんだけどこの本読んでその結論に至るのは相当読解力がないか、読まずにテキトーなこと言ってるかのどっちかです。
金持ち父さんシリーズで言ってるのは
- 資産を買え
- 資産とはあなたのポケットにお金を入れてくれるものだ
っていう話であって、その具体例として不動産をあげているだけであって、「金借りて不動産を買え」みたいな具体的な手法についての本ではないです。
妻のキムさんが不動産投資でうまくいってたので、たぶん例として取り上げやすかったんでしょう。あと当時のアメリカの市況が、不動産を買えば儲かるみたいな時期だったので、それもあって例として一番良いだろう、みたいなことだったんだと思います。
あと担保にできるのでレバレッジの説明としてもやりやすいですし、401kみたいな節税の話も含めて一貫して例に取り上げやすいです。
マルチ商法の本でしょ
これは半分正解で半分間違いって感じですかね。
まずロバート・キヨサキ自身、マルチ商法については最初の本『金持ち父さん貧乏父さん』では、マルチ商法についてはほとんど触れていませんし、少しだけ触れている部分もどちらかといえば否定的、くらいのスタンスだったと記憶しています。
けっこう皮肉的なことも書いてある本で、「あれもこれも嫌だというなら、あとは宝くじを祈るくらいしか方法がない」みたいなことも書いてあって、マルチ商法についてもそんな感じの触れ方だった気がします。
ただ2冊目だったか他の本の中だとけっこう肯定的なスタンスに変わってたので、途中から肯定派になったんだろうな、とは思ってます。
ただ別に本にロバートキヨサキのマルチのアカウント勧誘が書いてあるとかそういうわけじゃないので、読んだからどうこうなるってわけでもないです。
あとはマルチの人たちがよく勧めてくるっていうのに関しては、本当です。あとキャッシュフローゲーム・オフイベみたいなのに行くと、そのイベント自体がマルチの勧誘会だった、っていうケースが多かったのも事実です。
自己啓発本でしょ
自己啓発本のカテゴリーには一応入ると思います。
ただよくある「全く知識にならない感想と意見だけ綴った本」かというと、ちゃんと得るものがある本だと思います。
少なくともキヨサキさんが掲げている「金融教育の入り口」としては、良い本だと私は思っています。
というのも現在日本の一般層の金融知識はかなり薄れていて、DMM.comの紹介でも軽く話しましたが、特に一般のサラリーマン家庭においてはほぼゼロといっても差し支えない状態だと私は思っています。
例えば
- 家や車は資産(なので無条件に買った方が良い)
- 借金は一概にすべて悪いものである
- 投資とはただのギャンブル
- 株に手を出して失敗すると無条件にひどい借金を背負う
といったような明確に間違った知識が家庭で継承されてしまっている、というのはキヨサキ氏の言う通りだと私も思います。(事実、私の家の教育がそうでした。)
その状態から金融の知識を身に着けたいなら、最初の1冊としては良い本だと私は思っています。